【TK診療室 14】ダウン症候群の合併症

こちらTK診療室14

みなさんこんにちは。近藤達郎です。今回はダウン症候群の様々な合併症について整理していきます。その中には、これまでいろいろな勉強会などで見聞きしたことも含めます。そのため、信頼性が若干低下する危惧もありますが、読んでいただき、該当疾患について必要に応じてその専門医師にご確認いただけると良いと思います。

心・循環器系:房室中隔欠損症、心室中隔欠損症、ファロー四徴症など先天性心疾患

ダウン症には約50%に先天性心疾患が合併し、その病型には心内膜床欠損完全型と心室中隔欠損が多く、チアノーゼ性ではファロー四徴症(TOF)が多いとされています。詳細については以下のような報告もあります。
以前、日本小児循環器学会遺伝子疫学委員会で2002年7月から2005年6月の3年間に80施設に受診したダウン症児の調査を行っています。心血管系の主診断の頻度は、心室中隔欠損(VSD:37.8%)、房室中隔欠損症(心内膜床欠損)(AVSD:29.9%)、動脈管開存(PDA:10.2%)、心房中隔欠損(ASD:10.0%)の順で高く、一般の心血管疾患の頻度に比べ、VSD,ASDでは差はありませんでしたが、AVSD、PDAにおいて有意に高頻度でした(p < 0.01)。また心疾患の半数に肺高血圧(PH)が合併していました。VSDに75%、AVSDに50%、PDAに50%、ASDに25%のPHの合併を認めているようです。さらに、左上大静脈遺残(PLSVC)、右鎖骨下動脈起始異常(aberrant RSCA)などの血管奇形も認められ、一般の心血管疾患の頻度に比べ有意に高頻度でした(p < 0.01)。大血管転換(TGA)、総肺静脈環流異常(TAPVR)などは認められませんでした。全体の性差は 1:1 で男女差はありませんでした。VSD、PDAで男女比 1:1、TOFで男女比2.4:1 と一般の心血管疾患の性差と同様でした。一方、ASD、AVSDにおける男女比 1:1 と、一般のASD、AVSDの患者の男女比 1:2,1:2.5と異なっていました。
別の1310名(男性684名、女性626名)の報告では、先天性心疾患のある女性は354名(57%)、男性は338名(49%)で女性の方が高いという報告もあります。「手術あり」の女性は199名(32%)、男性は175名(26%)で女性に手術が必要な疾患が多かったようです。疾患としては、VSD、ASD、AVSD、PDA、ファロー四徴症(TOF)の順で、PDAは女性に多かったとの報告があります。

このように多い合併症である先天性心疾患については、手術も含め専門性の高い小児科医、小児循環器外科医によって診療を継続されていきます。肺高血圧につきましては、先天性心疾患の存在も大きいのですが、肺そのものについても肺胞構造に異常をきたしていることも関係するようです。手術は根治の状況であっても、大きくなってから弁置換など再手術が必要なこともあります。成人期移行時以降の診療について循環器内科などに変更する必要も出てくると思います。最近、「日本成人先天性心疾患学会( http://www.jsachd.org/ )が出来ています。ご参考にしてください。

ダウン症候群の可能性があれば超音波診断にて評価を行うことがほとんどと思います。心雑音が明確でなくても一度循環器専門医に確認をしてもらう必要があります。それ以降については、循環器系薬剤、酸素療法(在宅酸素を含みます)や手術も含めてある程度、医療機関主導で方向性が決められていくと思います。身体障害者手帳、小児慢性疾患についても循環器専門医とご検討下さい。

消化器疾患:十二指腸閉鎖/狭窄、鎖肛、ヒルシュスプルング病、高度便秘、臍ヘルニア、気管食道瘻、幽門狭窄症、輪状膵、胃・十二指腸潰瘍など

約4-10%程度の頻度とされていて、消化管の異常としては消化管閉鎖症と消化管運動異常疾患に大別されます。
先天性消化管閉鎖症としては、先天性食道閉鎖症、肥厚性幽門狭窄症、先天性十二指腸閉鎖症/狭窄症、直腸肛門奇形(鎖肛)などがあります。その中でも多い先天性十二指腸狭窄/閉鎖は元来非常にまれですが、ダウン症児に限っては3-5%に合併すると言われています。この原因は、生まれつき十二指腸を挟み込むような輪状膵が多いとされています。手術に問題がなければ長期的には問題となるような症状は稀ですが、輪状膵がある場合には後に膵炎を引き起こすことがあります。このような閉塞系の消化器疾患では妊娠中に羊水を飲み込むことができないため羊水過多になることが多いです。先天性食道閉鎖症は食道と気管のつながり方でA型からE型までの5つに分類されます。その中で、最も多いのは口側の食道が途中で終わり(盲端)、胃側の食道が気管とつながっているC型です。先天性食道閉鎖症は手術が必要です。その後は胃食道逆流現象(胃液が食道の方に上がってしまう)から逆流性食道炎に注意をしていく必要があります。直腸肛門奇形(鎖肛)は、肛門が生まれつきない、通常の肛門ではなく小さな穴しかない(皮膚瘻)、肛門の位置がずれているなどいろいろなタイプがあります。場合によっては男児では直腸が膀胱や尿道とつながり、女児では直腸が膣や膣の出口の近く(膣前庭)につながることもあります。通常は肛門がありませんので、おしりを診ただけで見つかることも多いですが、女児では膣や膣前庭から便が出るためにわかりづらいこともあります。治療は手術になりますが、状況によって手術法を選択しないといけないこともあります。
消化管運動異常疾患としては、食道アカラシア、ヒルシュスプルング病、慢性便秘があります。
食道アカラシアは食道の本来の仕事(食物を上手に胃の方に送る動き:蠕動運動)がうまくいかないものです。蠕動運動が見られず、食道と胃の境にある噴門も十分に開きません。そのため、食道に食物がたまってしまい、嘔吐してしまいます。正確な診断は食道内圧検査と呼ばれる特殊な検査が必要で専門のところでないと検査はできません。食事の時にかんだものをそのままの形で吐くことが続く場合には食道の疾患の可能性も否定できないので専門施設の診察を受ける必要があります。
ヒルシュスプルング病は、生まれつきに腸の蠕動運動をコントロールしている神経節細胞が肛門からある程度の長さにわたってない疾患です。症状としては、重度の便秘(便が出ない)や腸閉塞になることがあります。これも検査は特殊なものになりますし、治療は神経節細胞のない腸を切除して正常な腸をつなぎ合わせるという手術になります。ダウン症児では、便意を感じにくかったり、直腸が収縮すると肛門括約筋が開いて排便する反射が弱いことなどが関係してか高度便秘になることもあります。便秘が続くと排尿に関係する尿管(膀胱と腎臓をつなぐ管)を圧排して排尿ができにくくなったりすることもあるし、腸閉塞にも注意することが必要です。様々な難下剤も含め医療的ケアが必要なこともあります。その一方、腸の蠕動運動が亢進して、軟便や下痢が続く方も散見されます。自律神経系の不具合が関係することもあり、病院に相談することが必要なことも少なくありません。
その他、ヘルニア(腸が通常収まっているところからそれ以外の場所に入り込むこと)にも注意が必要です。大腿のまたのところ(鼠径部)から足の方や陰嚢の方に脱腸するもの(鼠経ヘルニア)やへその方に脱腸するのも(臍ヘルニア)、腹部の腸を抑えている大網の隙間から脱腸するものなどあります。場合によっては手術が必要になることもあります。
さらに、胃・十二指腸潰瘍になる方もいます。この場合もひどくなると嘔吐や食欲不振から体重減少が出てきます。ピロリ菌が関係する場合も関係しない場合もあります。小学生以上のお子様での経験もあります。
肝臓については脂肪肝や非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)も比較的よく認められます。ダウン症候群は筋肉量が少なく、運動量も少ないことが多いため高率に肥満を認めます(23-70%)。脂肪肝を合併する率も63%程度とされているようです。

神経疾患:てんかん、脳波異常、全前脳庖症、前頭縫合開大、精神疾患、社会性に関連する能力の退行様症状、アルツハイマー病など

ダウン症候群のてんかんの発症は、年齢的に小児期に起こるものと成人期に起こるものの二峰性と言われています。小児期において、てんかんの罹患率は一般の方と比べて多くはないという報告があります。しかし、乳児期、多くは生後4か月以降1歳までに好発する「点頭てんかん(ウェスト症候群)」の罹患率は一般より多いとされています。これは発作の様子(まるでお辞儀するように頭部を前屈させると同時に手足をぴくっとさせる動きを反復する一連の動き(シリーズと言います)を繰り返します)や脳波所見は特徴的なものがあります。このように気になる動作を認めた場合には、携帯電話などで動画を撮って、医師に問題ないのかを見ていただくのが良いです。点頭てんかんによって、発達が停滞し、表情や周囲への反応が乏しくなることがあります。きちんと専門医に治療をしていただく必要があります。点頭てんかんは、治療が奏効すると発作が完全に消失し、薬物療法が不要になる場合も少なくありません。
ダウン症候群では実際に脳波をとってみると脳波異常は一般の方より頻度が高いと言われます。しかし、実際にけいれん発作を起こさなければ薬物治療に進んでいくことは少ないのではと思います。通常の熱性けいれんや全般発作もあり得ます。普通はけいれん発作を認めた場合には家族は驚き、救急車を呼ばれると思います。通常の間代性強直性発作(手足全体をぴくぴくさせる発作)が起こった場合には、舌を噛むのではないかと指や割りばしなど何か口の中に入れることをしがちですが、舌はむしろ奥に行きますので舌を噛むことはないばかりか息ができなくなったり、指をかんだりする不利益の方が大きいです。けいれんの時に嘔吐することがありますので、それを吸い込まないように(誤嚥性肺炎の原因になります)首を横に向けて首元を楽にして息をしやすい状況を確認して救急車を呼ぶのが良いと思います。救急隊が到着するまでの間は、怖いかも知れませんが、上述のように携帯電話などで動画を撮って、医師に見ていただくと今後の役に立ちます。成人期(20歳代から40歳代が多いかもしれません)に初めてのけいれんを起こすことがあります。私の外来においでになられているダウン症者でも少なくないように思います。この場合にも薬物療法が中心になりますが、奏効してその後はけいれん発作が全く消失したダウン症者もおられます。成人期発症のけいれん発作が認知症との関係を示す例もあるとの報告もありますので注意は必要です。
ダウン症候群では生まれつきに脳の異常を来している方もおられます。この場合には、けいれん発作など神経学的に異常を認めることが多いです。根本的な治療は難しく、対症療法が中心になるかも知れません。また、頭蓋骨の発育に問題があり、大泉門(赤ちゃんの頭で前頭部位に骨で覆われていないぶかぶかしているひし形のところ)が大きかったり、前額部までその隙間が伸びている(前頭縫合拡大)ことなどがあります。これ自体は経過観察していくことが多いと思います。
その他、精神的な問題、社会性に関連する能力の退行様症状、アルツハイマー病などがありますが、これについてはこれまでに詳しく取り上げていますので、そちらをご参考にして下さい。

血液疾患:一過性骨髄増殖症(類白血病反応、TAM)、貧血、白血病(ALL, AML)、リンパ腫、胚細胞腫、脳腫瘍、免疫異常など

ダウン症候群において、血液疾患にも注意する必要があります。その中で一過性骨髄増殖症(TAM:Transient Abnormal Myelopoiesis)はダウン症候群に特徴的とされています。TAMはダウン症候群の約5-10%に発症するとされている新生児期に白血病様芽球が末梢血中に増加する疾患です。これまで、TAMは無治療経過観察のみで芽球は自然に消失し、比較的予後良好であると考えられていました。しかし、近年臓器障害のために早期死亡する症例が20~30% にみられることが報告されており、必ずしも予後良好の疾患ではないことが明らかになってきました。症状としては、肝脾腫、白血球増多、血小板減少などがあり、肝脾腫による著明な腹部膨満がみられることや著明な出血傾向がみられることがあります。重症の場合は肝機能異常、閉塞性黄疸、播種性血管内凝固症候群、全身性浮腫を呈することが多いです。また、ダウン症候群では高頻度に先天性心疾患を合併するため、そのような患者ではTAMをきっかけにチアノーゼを呈し心不全に至ることもあります。約20%の患者が1~3年後に急性巨核芽球性白血病を発症するとも言われています。小児血液分野を専門にしている医師が治療にあたると思います。先日のフォーラムの時にシンガポール大学(熊本大学)の大里先生がクレソンやブロッコリーが白血病発症の予防に役立つと教えていただきました。
先ほど少し触れましたが、TAMを発症した小児の一部(10~20%と言われています)は、多くは2歳まで、遅くとも5歳までの間に急性巨核芽球性白血病(急性骨髄性白血病(AML)の一部)を発症することが知られています。白血病に対しては抗がん剤治療が行われますが、ダウン症小児の急性巨核芽球性白血病は他のAMLよりも、抗がん剤が効きやすいのが特徴です。そのため、抗がん剤の量を調整することが考慮されます。急性巨核芽球性白血病以外のAMLもダウン症の小児に発症することがありますが、その罹患率はダウン症のない小児と差はないとされています。
ダウン症児は、AMLほどではありませんが、急性リンパ性白血病(ALL)の発症頻度が一般より約20倍程度高いことが知られています。TAMの既往の有無はALLとは関係がないとされています。ダウン症の小児では、抗がん剤による粘膜の障害が出やすい傾向があり、特にALLに対して用いられるメソトレキセートという抗がん剤による合併症が重くなる可能性があります。このようなダウン症の小児の体質にあった適切な治療法が必要ですが、治療にあたる医師はよくご存じと思います。
ダウン症候群のある方については、白血病以外の固形腫瘍(神経芽細胞腫、ウィルムス腫瘍、消化器系のがん、子宮がん、乳がん、脳腫瘍など)は逆に少ないと言われています。このことから、発がんや抗がんのメカニズムについて様々な検討がなされています。少ないと言ってもないわけではないので、注意は必要です。精巣腫瘍は、ダウン症候群の方に多い腫瘍の一つ(一般と比べて6-50倍)とされていますので、精巣が大きく腫れてきていないかは定期的に確認が必要と思われます。
貧血は、鉄欠乏性貧血を中心に様々な原因によって起こりえます。もともと、先天性心疾患などが関係するせいかヘモグロビン値は高い傾向にあるように思いますが、その数値が下がる際にはその原因を探る必要があります。
ダウン症候群は免疫機能(抵抗力)が弱いと言われています。免疫機能に関係する因子はたくさんありますが、1つの免疫因子が弱いわけではなく、全体的にやや低下か正常下限で全体的には症状に関係するくらいの弱さが出てきます。予防接種は一般と同様に受けるべきで、定期予防接種の他、おたふくかぜのような任意予防接種もできるだけ受けておいた方が良いです。幼少期は呼吸器感染症で入退院を繰り返すことは多いです。呼吸器感染症には肺そのものの構造も関係するのですが、肺の末端の肺胞構造に変化をきたしていることもあり、RSウィルス感染症やヒトメタニューモウィルス感染症など呼吸器に大きな影響を与える感染症にはより注意が必要です。抗RSウィルスヒト化モノクローナル抗体のパリビスマブ(シナジス)が2歳以下のダウン症児でRSウィルス感染による重篤な下気道感染の発症予防に保険適応で使用されます。学童期以上になると免疫能は安定して、感染症にはある程度かかりにくくなりますが、年齢が高くなると、また感染症に注意が必要になります。ダウン症者の平均年齢は60歳前後と言われていますが、その死因は肺炎など呼吸器感染症です。年齢が高くなればなおさら感染症に注意し、完全に症状が取れるまで医療機関にかかることが重要と思われます。

内分泌疾患:甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症、慢性甲状腺炎、性腺機能不全、高尿酸血症、糖尿病など

ダウン症候群では一般の方と比べて甲状腺機能障害の合併が有意に多くなるため、年に1回程度の定期検査が必要です。生後18日~26歳のダウン症者で何らかの甲状腺機能異常の既往がある頻度は24%との報告もありますし、約30%程度との話もあります。。甲状腺ホルモンは血液の中の量はごく微量ですが、成長発育に欠くことのできない大事な物質で、特に知能発達に重要です。甲状腺ホルモンは足りなくても多すぎても病気になります。多いものを甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)、少ないものを甲状腺機能低下症(小児ではクレチン症)になります。新生児や乳児では甲状腺自体の先天的な機能の問題が多く、年長児や成人では甲状腺に対する自己抗体が原因のことが多いです。これまで数多くのダウン症児・者で甲状腺機能検査を行ってきましたが、採血をして初めてわかることも少なくない印象があります。
甲状腺機能低下症では、不活発などの症状が出ると言われていますがそうでないことが多いと思います。逆に甲状腺機能亢進症の場合にもあまり症状は出ない印象ですが体重減少はよく見られます。体重減少が何もなく起こっている時には、甲状腺機能亢進を疑っています。
慢性甲状腺炎と言われるものも多いので、甲状腺機能に異常見つかった場合には専門の先生に見ていただくことをお勧めします。定期的なチェックが必要です。
性腺機能については、ダウン症者ではその機能が弱いことがあります。妊孕性(赤ちゃんを持つ能力)については原則的には男性は不妊、女性は15-30%で妊孕性があると言われています。しかし、女性でも生理が不順になることも少なくなく、生理中とその前後に動作が鈍くなるなど日常生活能力に影響を与えることもあります。女性ホルモンの上がり下がりが急峻になっていることが関係することがあり、低用量ピルの使用などを行っている方も少なくありません。産婦人科医へのご相談が必要なことがあります。結婚のことについても触れますと米国ではダウン症者のカップルが正式にご結婚されていますし、カナダではダウン症女性とダウン症でない男性がご結婚されている例があるようです。長崎でもサポートを受けながらダウン症女性が男性とお付き合いをされている方がおられるようです。医療の進歩に伴い、理論的にはダウン症者同士でも挙児が可能になるかも知れません。21トリソミーカップルの児については、1/4が21テトラソミーで流産、2/4が21トリソミー、1/4が正常核型と考えられますが、ダウン症胎児の約80%が流産するということから考えると、胎児期に成長が順調な場合には正常核型の児の可能性が高くなることが推測されます。ただ、その場合に親になるダウン症者の育児については多大なサポートが必要になることが推測され、社会的支援は不可欠と考えられます。女性の場合に生理の処理のことがあり、生理が滞ることが逆に困り度が少なくなって良いと思われる方もいるかもしれませんが、女性ホルモンは骨を強くします。閉経後の女性の骨がもろくなる(骨粗しょう症)のはよく知られていると思いますが、その意味でも生理は大切と思います。
ダウン症候群の方は尿酸値が高いことが少なくありません。尿酸値が高いと痛風(特に足の親指のところの痛みの痛風結節など)を直結して考えがちですが症状があまり出ないこともあります。定期的な検査の中に尿酸値を入れるべきと思います。
ダウン症候群では糖尿病の罹患率が一般より高くなります。特に肥満が強い方にその傾向は多いようです。特に肥満が強い方では、糖尿病がないかどうかについても定期的な検査に含めるべきと思われます。その上で問題が見つかれば、専門医に見ていただく必要があるようです。
次に肥満(症)とメタボリック症候群について話を進めます。
ダウン症児・者は肥満傾向の方が多く、特に、小学校高学年から肥満が出現することがあります。先ず、肥満かどうかの検査はBMI (Body Mass Index)、乳幼児(3か月から5歳)はBMIをカウプ指数と呼んでいます。BMI=体重(kg)÷身長(m)2、カウプ指数も同様です。ほかにローレル指数を学童期(小学生時)に使用されることもあります。ローレル指数=体重(kg)÷身長(m)3 x 10です。例えば、150㎝、45kgの方では、BMI=45÷1.5÷1.5=20、 ローレル指数=45÷1.5÷1.5÷1.5 x 10 = 133.3となります。カウプ指数では14以下をやせ気味、15-17を普通、18以上を太りすぎ、成人ではBMIが18.49以下をやせ気味、18.50-24.99を普通体重、15.00-29.99を前肥満、30.00-34.99を肥満(1度)、35.00-39.99を肥満(2度)、40.00以上を肥満(3度)とWHO(世界保健機関)で言われています。
日本肥満学会ではBMIが25以上を肥満としています。ローレル指数では160以上を太りすぎとしています。皆様の結果はいかがでしょうか?栄養と運動に心掛ける必要があると思われます。成人で肥満が進むとメタボリック症候群が心配になります。メタボリック症候群とは内臓脂肪が増え、生活習慣病や血管の病気になりやすくなっている状況を言います。メタボリック症候群の診断は腹囲、血圧、血液検査の3つで判定されます。男性であれば85cm以上、女性では90cm以上の腹囲をメタボリックシンドローム診断の必須項目としています。血圧は130/85mmHg以上(収縮期血圧が130mmHg以上、かつ/または 拡張期血圧185mmHg以上)がひとつの指標です。血液検査では空腹時血糖を測定し110mg/dl以上を陽性とします。中性脂肪やHDLコレステロールといった血清脂質を測定し、それぞれ150mg/dl以上かつ、または40mg/dl未満を陽性にします。これら、血圧、血糖、血清脂質値を参考にしつつメタボリックシンドロームを診断します。ただ、ダウン症者は肥満があっても血圧が低い方が多く、メタボリック症候群の診断基準に当てはまることがむしろ少ないように思われます。血圧以外の項目を参考にした方が良いかも知れず、ここは今後の検討が待たれるかも知れません。

眼科疾患:斜視、白内障、屈折異常(遠視、近視、乱視)、眼振、円錐角膜など

ダウン症候群の眼科的疾患としては、白内障、斜視、内反症、眼振、円錐角膜、視神経低形成などがありますが、遠視や乱視などの屈折障害が最も多いです。正常の視力は、生後6か月で0.05-0.2、1歳で0.05-0.4と発達し、3歳でほぼ1.0に達するとされています。屈折異常はダウン症児・者の約半数で、5歳くらいまでは近視より遠視と乱視が多く、それ以降は近視と乱視が多くなります。
白内障は水晶体の混濁で、明るいところで瞳孔の中を見ると白い濁りがあることに気づくことがあります。先天性のものと、20歳代以降の成人期に起こすものとに大別できます。先天性の白内障は早期発見、早期治療が最も大切です。そのまま放置すると弱視になってしまいます。定期的な眼科受診は重要です。白内障でも混濁が非常に軽度であれば手術をしないで点眼の保存的な治療を行うこともあります。
斜視は両眼または片眼の視線が表面からずれているものを言います。ダウン症児では片眼が内側に寄った内斜視が多いです。片眼性斜視でも、どちらの目を使っている場合と片眼がいつも寄っていて一方の目のみで見ている場合があり、後者は弱視になる可能性があります。この様な場合にはアイパッチを用いてそれぞれの目できちんと見ることをトレーニングすることもあります。手術については、内斜視は2歳前後、外斜視やその他の斜視は5歳以降に行うことが多いようです。内斜視の中には遠視の眼鏡の装用のみで眼位が正常になる調節性内斜視が含まれます。その場合には手術の対象にはなりませんが、眼鏡を常用する必要があります。
遠視や近視、乱視も含めてダウン症児・者は眼鏡を装用する必要がありますが多くの方は上手につけてくれることが難しい場合もあります。どうも、眼鏡のフィット感は重要だとの意見もあります。お顔立ちに最もフィットするように眼鏡を調整してもらうようにお願いすると良いと思います。
ダウン症者では約5人に1人と内反症が多いと言われます。まぶたが内側に湾曲したものを内反症と言います。内反症ではまつ毛の生え方は正常であるにも関わらず、まぶたが内側に湾曲しているためにまつ毛が角膜にあたる状況になっています。これは数本のまつ毛だけが内側に生えた「睫毛乱生(さかさまつ毛)」とは異なります。内反症の場合には手術が必要なことも少なくありませんが、手術しても再発することがあります。
眼振もしばしばみられます。約4人に1人との頻度ともされています。特に横を見るときに強くなることがあるようです。なかなか改善が難しいですが、眼振の程度が最も弱い眼位が見えやすいと言われますのでそれを日常生活で意識する必要があります。
ダウン症児・者は鼻涙管が狭いことが多く、ここの流れが詰まりやすくなり流涙や眼脂がたまったりします。眼科受診の上、抗生物質の点眼や涙嚢マッサージをしますが、改善しなければブジーという細い針金で詰まっているところを開放する必要があります。

耳鼻咽喉科疾患:難聴(伝音性、感音性、混合性)、中耳炎など

ある医療機関の調査では115名のダウン症児で正常聴力が84名(73%)、このうち6名(7%)に滲出性中耳炎の既往を認めています。軽度難聴が10名(9%)、このうち2名(20%)に両側の高音部の感音難聴を認めています。他の8名(80%)は滲出性中耳炎でした。中等度難聴は4名(3%)、このうち1名(25%)は両側の滲出性中耳炎を繰り返し、両側の真珠腫性中耳炎を併発し鼓膜形成術を受けていました。他の3名(75%)は感音難聴でした。高度感音難聴は両側が6名(6%)、片側聾が11名(11%)認められています。その他の種々の報告では、難聴が35%からほぼ100%という結果まであります。これらから、滲出性中耳炎などの管理は重要で、特に自分で状況を説明できにくい小さいお子様などは定期的に耳鼻咽喉科への受診が必要です。難聴には、伝音性難聴、感音性難聴、混合性難聴と分けることができますが、ダウン症児では伝音性難聴、高音性難聴ともに一般の児より高率だが、伝音性難聴の方が多いとされています。理由としては中耳炎の影響と考えられています。難聴は言語発達に大きな影響を与える可能性がありますので、耳鼻咽喉科には定期的に診療をうけても良いのかも知れません。
ダウン症児では、当初、高度感音難聴と診断され、補聴器を装用していた患児の聴力閾値が改善する症例がしばしばあります。これは滲出性中耳炎が改善した可能性、聴神経や脳幹の発達の未熟性や神経反応の同期性の低下が年齢とともに改善した可能性が考えられます。
また、気管・気管支狭窄症、巨舌症、気管・気管支軟化症、扁桃肥大、アデノイド増殖症による上気道障害を発生し、エアウェイの挿入、扁桃摘出術、アデノイド切除術、ごくまれに気管切開を必要とする場合もあります、ダウン症児・者の合併症で頻度が高いものに睡眠時無呼吸症候群もあります。一般小児では0.7-2.0%であるのに対して、ダウン症児では30-60%とも言われています。寝る態勢が座臥位(正座した状態で前に倒れるような寝方)を示すことも多々ありますが、これは呼吸がしやすい体勢を自然にとっていると思われます。まっすぐ上を向いて寝ることは結構難しい方が少なくありません。いびきが途中でやむようなことがあれば医療機関に相談する必要があります。

整形外科疾患:関節弛緩、環軸不安定症、短指、多指症/欠指症、後彎、膝蓋骨脱臼/亜脱臼、外反偏平足、股関節脱臼など

ダウン症児には低緊張と全身関節弛緩という大きな身体的特徴があります。
特徴的な頚椎病変として、環軸椎不安定症が挙げられます。ダウン症児での頻度は約10-30%とされています。第1頚椎である環椎と第2頚椎である軸椎の間が不安定になって、亜脱臼や脱臼を起こすことが良く知られています。2-3歳くらいになったら、頚椎のレントゲンをとり、不安定性がないかどうかを確認する必要があります。軸椎にある歯突起(ちょうつがい)の形状にもよりますが環軸不安定症がある場合には首を前屈させる動作(前転や後転など)をさせないことが重要です。歯突起の形成異常は5-15%とされていますが、その場合には後屈も注意する必要があります。脱臼になると呼吸の問題や手足の麻痺が出てくることもあり、その場合には手術が必要です。その後の評価は就学前や9-10歳ごろに行うことが多いです。もし、環軸椎にずれが生じれば半年から一年ごとにレントゲンで評価し、手術療法の必要性を検討します。
その他、脊椎すべり症や脊椎管狭窄症も比較的よくみられます。脊椎管狭窄症になると、時々休まないと継続した歩行が難しいなどの症状を示します。そのような症状を示した場合には整形外科医に相談する必要があるかも知れません。
足については足部アーチ(土踏まず)の形成が悪く、外反偏平足や外反母趾になることがあります。外反偏平足は無症状ですが、外反母趾は痛みを伴い、歩行時に障害となる可能性があります。その場合には装具などを検討することになります。内反足になる児もいます。
稀に股関節不安定症を来すこともあります。ダウン症児の股関節不安定症は2歳以降に目立ってきます。始めはおむつを交換した際にクリック(コクンとした感じ)を感じるようになり、その後徐々に脱臼が生じるようになります。脱臼を繰り返すと最終的に変形性股関節症になり、歩行不能になる可能性があるため、将来生じる障害を少しでも減らすために、脱臼が生じ始めた時点で治療開始すべきと思われます。
膝関節においては膝蓋骨(さら)の外側脱臼(外側に変位してしまう)が比較的多くみられます(10-20%)。この場合には違和感や痛みが生じるため歩行障害を示すことが多いです。この場合にも装具療法や手術が必要なことがあります。

泌尿器疾患:腎奇形、茎/小陰嚢、排尿障害など

ダウン症候群での腎・泌尿器の形態異常は3.2%程度で、水腎症、巨大尿管症、嚢胞性異型性腎、低形成腎、膀胱尿管逆流症、後部尿道狭窄、後部尿道弁、停留精巣、矮小陰茎、精巣の発育不全、尿道下裂などがあります。また、排尿回数の減少や排尿時間が長い、おなかに力を入れて排尿するなどの排尿に関しての問題がかなりの頻度であります。排尿後に膀胱内にまだ尿がたまっていることを残尿があると言いますが、1回排尿量の20%がたまっていると病的とされるようです。大人で1回排尿量が500-600 mlとされますので、残尿が100 mlあると何らかの治療が必要となります。小さいお子様で排尿障害を起こすダウン症児が散見されますが、潜在性二分脊椎の有無が取りざたされることもあります。排尿回数が少ないと失敗する回数が減るので、家族にとっては心配の度合いが少ないことあります。調査で、中学生までのダウン症児と高校以降での有意な残尿のある頻度はかなり増える結果でした。これは誘導排尿(時間的に決めて排尿を促すこと)を中学校までは通常行われているものが高校生になると自由意志に任せることが関係していると思われます。40歳になると約1/3に病的残尿があるため、ずっと誘導排尿は必要と思われます。また、排尿の勢いが非常に弱く、時間がかかることも多いです。それが続くと良いことはなく、排尿スピードの改善や残尿の改善のために塩酸ドネペジル療法を検討しています。

皮膚科疾患:皮膚大理石病、皮膚角化症、末梢循環不全、慢性湿疹など

ダウン症候群は末梢循環が悪いせいか、皮膚にまだら模様が出ることがあります。冬場に手足が冷たく色が悪くなることも少なくありません。また、乾燥肌も目立つことが多いです。乾燥肌については、保湿成分が強い軟膏、クリームやスプレーを使用します。慢性湿疹や脂漏性湿疹も多いです。また、円形脱毛症は一般より多いとされています。精神的なストレスが影響している場合もありますが、周囲がみてもわかりにくい場合もあります。毛髪は細く、しなやかで色が薄い傾向があります。白髪が一般より早く出現する傾向もあります。

その他:起立性低血圧、呼吸器感染症、無呼吸、歯牙萌出遅延、咬合不全、歯列不整、歯牙欠損、歯肉炎、耳下腺異常、嚥下障害など

ダウン症者では特に午前中に活動性が乏しいことも少なくありませんし、特殊な例としては午前中に限り、失神を起こすこともあります。そのような状況の場合には、起立試験をして起立性低血圧がないかどうかと確認し、本症があれば薬剤を投与することもあります。それがてきめんに効果を示し、日常を元気に過ごすことができる方もおられます。
また、もともと肺胞構造に問題があり、肺高血圧や呼吸器感染を先天性心疾患がなくても起こしやすいことがありますので注意が必要です。免疫能(抵抗力)があまり強くないことも加味して、肺炎や呼吸器感染症を起こしやすい傾向もあります。学童期以降では比較的元気ですが、年齢が高くなると再度感染症に注意が必要になります。ダウン症候群の平均寿命は約60歳と言われていますが、その死亡原因は肺炎など呼吸器感染症と言われています。これが風邪をこじらせてのものなのか、嚥下障害による誤嚥のせいなのかははっきりとしていません。嚥下機能も丸のみが多い、舌の機能が悪く食べ物を奥に送りにくいなども加味してか、誤嚥することも少なくありません。誤嚥が疑われるときには嚥下造影などの評価の上、嚥下訓練が必要なこともあります。
無呼吸も上述したように注意が必要なことが多々あります。必要に応じて医療機関で相談する必要があります。
ダウン症候群の口腔の特徴としては、歯の生え方が遅い、歯根が短い、先天的に歯が少ない、反対咬合、上顎が小さい、舌が大きい、舌圧・口唇の筋肉が弱い、舌突出、舌の溝が深い、齲歯は少ないと言われています。
しかし、齲歯のリスクは高い場合もあり二極化の傾向があり、歯周病は多く約90%に認めるとの報告もあります。ダウン症児の乳歯が最初に萌出する年齢は13.7か月との報告があります。歯の大きさも小さい場合も多いし、53%に先天性歯牙欠損を認めたとの報告もあります。