【TK診療室 17】 皆様にお知らせしたいこと

TK診療室17

2024年3月20日

皆様、ご無沙汰しております。前回から1年余りが経ってしまいました。この1年もいろいろなことをしておりました。そのお知らせと皆様にお力を借りたいこともありますので、今回はその話をさせていただきます。

(1)Mガード(ミエリン活性サプリメント)の検討

2021年7月から2022年1月において、ダウン症者の日常生活能力を高める目的でMガード(ミエリン活性サプリメント)を服用していただき、一定の効果を認めることができ、2023年に日本早期認知症学会誌に掲載することができました(成人ダウン症者へのミエリン活性サプリメントMガード投与による退行様症状及び認知機能改善検討. 16(1): 2-11)。このサプリメントの効果を、より精度の高い二重盲検という方法で確認する検討が、聖マリアンナ医科大学を中心に行われます。サプリメントであることから、本検討に対しての危険性は非常に少ないと思われます。多くのダウン症のある方の日常生活能力が良い方向に迎えることができるように、ご協力をお願いしたく存じます。対象になられる方は、向精神薬や眠剤などの服用がない18歳から40歳のダウン症のある方で、みさかえの園総合発達医療福祉センターむつみの家に合計3回(始め、12週後、24週後)外来受診していただくことができる方です。これまでMガードやアリセプト(塩酸ドネペジル)を服用された(されている)方は対象になりませんのでご了承ください。通常の私の外来の中で行いますので、Mガード検討以外のご相談などにも対応させて頂きますので、これを機にご検討いただけますと幸いです。

実際に、先ずはお話を聞いてみたいという場合でももちろん大丈夫です(その場合には、最低4回の受診になります)。ご協力いただけます方は、「Mガード検討の件」とお伝えいただいた上で、近藤の外来をとっていただきますようお願い申し上げます。

(2)ダウン症者などを対象に老化とテロメアの関連性の検討

ダウン症候群のある方は、早く老化すると言われています。平均寿命も60歳前後との報告があります。気管支炎・肺炎などがきっかけとなってなくなることが多いとされていますが、このような病気を治療された場合に、ダウン症のない方と寿命があまり変わらない可能性がどうかということは不明のままです。この老化に関係するといわれているのがテロメアです。テロメアは染色体の端に位置するもので、細胞分裂を繰り返すとだんだん短くなってくることが分かっています(ある程度の短さになるとそれ以上細胞分裂ができなくなります)。この長さは個人差がかなりあるようですが、その長さだけで寿命が規定されているわけでないとの報告も数多くあります。しかし、老化とは関連性があるようです。アンチエイジングのサプリメント(オメガ8など)では、テロメアの短縮を緩和する可能性が言われたりしています。この、テロメアの長さを測ることができれば、ダウン症者の体質や老化の状況が分かる可能性があります。このテロメアの長さをシンガポール国立大学で測定できるようになりました。中心的にされている先生は熊本大学の先生ですが、シンガポール国立大学、熊本大学、みさかえの園むつみの家での共同の研究が始まりました。かなり個人差があることが想定されるため、ご家族にもご協力いただけますとより分かりやすいと思います。ご本人、ご家族の結果をお伝えした上で、今後のことを一緒に検討します。これも、私の外来の中で行っております。対象は、20歳以上のダウン症のある方、及びそのご家族になります。そのほかの染色体起因疾患の方におかれましても、場合によって検討します。ご興味のある方は、「テロメア検討の件」とお伝えいただいた上で、近藤の外来をとっていただきますようお願い申し上げます。

(3)ダウン症のある児・者における排尿障害へのアリセプト(塩酸ドネペジル)療法検討

ダウン症候群の合併症として、排尿障害(これは、排尿回数が少なく、排尿に時間がかかったり、途中で途切れるなどが多いです)は比較的多い合併症の一つです。私共は、長年、長崎大学、佐賀大学とみさかえの園むつみの家で このような方に対し、アリセプト療法の有用性の検討をしてきましたが、アリセプト(塩酸ドネペジル)が一定の効果を示すことが分かってきました。更に、排便障害(便秘気味)についても効果があるようです。研究そのものが中途半端な状況であるため、今後、もう少し検討を重ねているところです。詳細が決まりましたら、再度、この場でご連絡します。ただ、排尿障害について、非常に気になる方がおられましたら対応しますので、「排尿の件」とお伝えいただいた上で、近藤の外来をとっていただきますようお願い申し上げます。

(4)「パタカラプラス」の件

歌って踊ることで 言語・運動(バランス感覚など)の機能向上の一助になるようにとの思いで「パタカラプラス」検討を行っています。これについては、より良いコンテンツを提供することとご自宅などで簡単に状況確認(評価)ができることを骨子としています。コンテンツにつきましてはYouTubeでも見られるので、ご興味があれば是非ご覧ください( (200) パタカラプラス – YouTube )。

(5)「パスカルグループ」の件

ダウン症候群など染色体起因疾患のある方の中で、本人が穏やかで、地域社会や医療とのつながりを持てる方は、福祉サポートが整っていれば、いろいろな問題はあるにしても何とか健やかな生活を送れるものと思われます。ところが、もともと、またはある時期から急に、精神的健康が損なわれ強度行動障害を起こし、家族にとって、常時緊張を強いられることがあります。具体的には、他者と協調して活動することが難しく、学校、職場などに全く行けない、それを無理強いすると、パニックになり、自傷・他害に及んでしまう、採血や画像検索などの医療に拒否が非常に強く病院も受診できにくい、衝動的に破壊行動を起こしてしまう、表情が非常に険しく日々の生活に楽しみを感じているように思えない、食事を全くとらなくなり体重減少が高度で体力減少・筋力低下に併せて動作が非常に緩慢になってしまう、全く睡眠が保てないなどの状況です。このような場合は、スタンダードな治療法が明確でないので、家族から話を聞き、薬物療法を含めた様々な方法を家族と一緒に考え、うまくいけばそれを継続し、うまくいかなければ別の方法を検討するということを繰り返しています。家族会でも、このような方は少数であり、その困り度が多くの会員にとっての興味のあるテーマと異なるため、会から外れていく場合も多いと考えられます。このような方々こそ、困っていることや思いを声に出せる場、専門的に支援する場があると良いと思い、Closed Group for PAcing the Safe and CAlm Life (安全で穏やかな生活を送るための非公開グループ; PASCALグループ) を2023年9月に設立しました。詳細はバンビの会のホームページをご覧下さい( バンビの会|【お知らせ】パスカルグループ開設について (banbinokai.com) )。

(6)講演会のお知らせ

これまで「臨床遺伝」という分野で、ダウン症候群をはじめ、多くの患者様・ご家族にお会いし、ご協力ご支援のもと、様々な検討もしてきました。そのいずれもが、本人・家族の困りごと、心配な事から出発しているものですから、きっと皆様のお役に立つものと思っているところです。私も今年65歳になり、いつまでこの分野に関わることができるのか、との思いから、私がこれまでしてきたこと、理解していることについて講演会を行わせていただくことにしました。パスカルグループの件に関係するのかも知れませんが、精神的健康が最も大切と思い、私が尊敬している精神科医の今村明先生と二人での講演会となります。

日時:2024年10月5日(土)13時から  

会場:長崎市障害福祉センター(もりまちハートセンター)2階研修室

※詳細はバンビの会にお尋ねください。

 (7)本のお知らせ

(6)にも関係するのですが、本を作ろうと思っています。バンビの会のご支援のもと、上述の今村先生と二人で、この「こちらTK診療室」の内容も含め、これまでやってきたことをまとめてみたいと思い、現在準備をしているところです。秋には出来上がるように考えています。「ダウン症者・家族が幸せにくらすために2 ー 長崎トライアル ー」という題名になると思います。

 皆様のかけがえのないお子様のため、ご家族のため、ご理解とご支援をどうぞよろしくお願い申し上げます。

 

添付ファイル:TK診療室17