【TK診療室 8】ダウン症候群の出生数に関しての一考

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ダウン症候群の出生数に関しての一考

 

今回以下の様な話がありました。

■NEWS ダウン症児出生数は横ばい傾向、高年妊娠増加も出生前診断の普及が影響か―成育医療センター

WEB医事新報No.4975 (2019年08月31日発行) P.66  登録日: 2019-08-20 最終更新日: 2019-08-20 コーナー: ニュース記事   診療科: 産科

 

国立成育医療研究センターは8月8日、過去7年間(2010~16年)の日本におけるダウン症候群(21トリソミー)の年間推定出生数を論文として報告し、7月に米国遺伝医学雑誌(American Journal of Medical Genetics Part A)に掲載されたと発表した。研究成果は、同センターの佐々木愛子医師と左合治彦医師によるもの。08年に発表された論文では、妊婦の高年齢化に伴いダウン症候群児が激増すると予測されていたが、実際の動向は10年以降ほぼ横ばいであることが示された。同研究では、出生届を基に報告されている出産母体の出産時年齢と出生数から、単純に予測されるダウン症候群の出生数に出生前診断(確定検査)の影響を加味することで、ダウン症候群の年間出生数を推計した。

その結果によると、10~16年におけるダウン症候群の年間推定出生数は2200人(1万出生当たり22)前後で安定していた。16年生まれのダウン症候群児では、約20%が出生前診断を受けており、母体の約70%は35歳以上の高年妊娠と推定された。佐々木氏らは、妊婦の高年齢化が進む中で出生前診断が普及したことが、10年以降の横ばい傾向につながったとみている。

日本にはダウン症候群の出生数を記録する公的な仕組みがなく、同研究が現時点で最も実態を捉えたデータとなる。佐々木氏は「出生前診断を取り巻く問題は非常に複雑だが、なるべく正確な実態把握が議論の出発点になると思う」と話しており、今後の医療・福祉制度について倫理面、医療経済面を含めて検討する際の土台としてデータが活用されることに期待を示した。

 

皆様に何度もお伝えしているように、ヒトの卵子は約25%、精子の15%、受精卵の20-40%に染色体異常があります。ものすごい頻度ですが、これに母親の加齢効果が絡んできます。卵子は精子と異なり、女児が生まれてきた時には全ての卵子を保持しています。それが思春期になり、排卵(生理)が始まり(初潮)、最後は閉経になります。そのため、高齢になってくると卵の老化の問題が出るとされています。卵の老化によって何が起こるのでしょうか?細胞分裂の際には、通常46本ある染色体も分裂しそれぞれの細胞に46本の染色体が核内にあります。老化すると、染色体の分裂がうまく行かなく2つに分かれるべき染色体をそれぞれの細胞になるべく引っ張る紐(紡錘糸)に不具合ができ、1つの細胞に2つとも入ってしまうことが起こりえます。つまり、数の異常を起こしやすくなると言われています。ダウン症候群で母親の加齢効果が言われているのはそのことです。母親の年齢が35歳では約300出生に1名がダウン症候群であるというデータが出ています。

2007年に故 梶井正 元山口大学小児科教授が我が国で試算するとおそらく340出生に1名はダウン症候群であるという状況であると報告されています(日本小児科学会雑誌、American Journal of Medical Genetics Part A)。出産総数に対する35歳以上の出産比率は2000年は約12%、2008年は約21%、2015年は約28%と増加しています。2008年と2015年の我が国の出生数は各々1,091,156人と1,008,000人です。高齢出産で生まれた赤ちゃんの数を計算すると、2008年と2015年で各々229,143人と282,240人となります。梶井先生が言われたころと比べると高齢妊娠による出生数そのものも増加傾向にあるようです(約1.2倍)。と言うことは、現在は280-290出生に1名はダウン症候群と言うことになりえるのかなと思います。

一方、以下のような衝撃的な話もあります。

最近取沙汰されているNIPT(非侵襲的出生前遺伝学的検査)をほぼスクリーニング化しているフランスではダウン症候群を持つ児の出生数が93%も激減しているようです(7%が出生している)( https://www.jstage.jst.go.jp/article/ojjscn/50/2/50_104/_pdf/-char/ja )。台湾も同様の傾向があるという話を伺ったこともあります。

つまり、ダウン症のある方の出生頻度は、加工された数字であるということなので、時代背景・社会環境によって大きく変化するということです。

上記のことをもととして、私なりに日本の状況を考えてみます。

我が国でのダウン症候群を持つ方の出生数はここ数年2200名/年で変わらないということです。我が国の出生数は2015年に1,008,000人、2018年は918,397人とかなり減少しています。もしかしたら高齢妊娠の頻度は増えているのかも知れません。2015年のことを考えると、全て生まれてくるとするとダウン症児の数はおそらく3500名程度になると考えられます。実際には2200名程度が出生しているということは63%程度が出生していることになります。

2007年前後に、南ベルギー、米国カルフォルニアでは出生前診断などで予測数と比べて約半数が出生しているとの報告がありました。

以前、オランダのダウン症者を含む知的障がいのある方々の生活環境を長崎大学の本多さんが調べたとこと、彼らの生活環境は日本よりも手厚いことが多くあるということでした。生まれてきた以上は、幸せな人生を送られることを支援する思想・システムは我が国より進んでいるところがあるのかも知れません。

出生に関しては我が国は諸外国よりおおらかである一方、出生後に関しては必ずしもおおらか・理解的・優しい状況とは言いにくいのかも知れません。

バンビの会を始め、多くの我が国のダウン症者の生活環境をより良くするために、多方面からの検討がいるような気がしてなりません。

 

2019年9月1日