染色体異常とは?

 染色体異常は比較的よく起こると言われている。配偶子の染色体異常として、精子の異常率は9-15%でその内訳は数的異常が1.4〜4.1%、構造異常が7.7〜13.5%とされている。卵子の数的異常は10〜30%、構造異常が0.4〜6.0%で、全体としての染色体異常率は18〜34%ある。受精卵の染色体異常は、20〜40%程度と言われている。自然流産児における染色体異常率は約50%とされているが、妊娠週数が進むにつれて染色体異常率は低下していく。自然流産胎児に認められる染色体異常では約50%が常染色体トリソミー、次いで45,Xと三倍体が各々約20%弱、四倍体や構造異常は各々約5%程度である。更に自然流産児で認めた常染色体トリソミーのうち約30%が16トリソミーで最も多く、次いで21、22トリソミーが各々10%前後、14、15トリソミーが各々7%程度となっている。染色体の不分離は全ての染色体にほぼ均等に発生していると考えられるが、その染色体上の遺伝子の違いにより個体の生命維持における重要性の違いが流産児における各染色体トリソミーの頻度に反映されているかも知れない。新生児の染色体異常率は、0.6%で人種差や地域差は認められないとされていたが、最近の分析技術の進歩によりその頻度はもっと高く0.8%程度となされている。常染色体トリソミーで、生存可能なものは13, 18, 21番染色体トリソミーの3つだけであるが、その発生頻度はトリソミー13が0.008%、トリソミー18が0.015%、トリソミー21が0.12%であわせて0.14%である。
 数的異常は、22本の常染色体+1本の性染色体を1つのセットとした倍数性(polyploidy : 23本×n)の異常と、固有の染色体の増減による異常とに分けられる。
 特定の1本もしくは数本の染色体の増減がある場合を異数性(aneuploidy)といい、このような細胞や個体を異数体(aneuploid)という。これらの異常は染色体の不分離(nondisjunction)または分裂後期の遅延(anaphase lagging)等によって生じる。異数性のうち、二倍性細胞から染色体が1個過剰になったものをトリソミー、1個欠失したものをモノソミーという。代表的な数的異常としては、常染色体異常の中では、生産児でモザイクを伴わないものは13番トリソミー、18番トリソミー、21番トリソミーの3つのみである。その他の常染色体トリソミーとしては、7, 9, 12, 22の報告があるが、いずれも出生後早期に死亡する。
 染色体の数的異常は各種の薬物、ウィルス感染、放射線など種々の要因で誘発される。その中で特に異数性個体の形成に対する母年齢効果は、特徴的な現象である。ヒトの卵子は胎生5ヶ月で増殖を完了し第一成熟分裂の網糸期でその分裂を停止する。性成熟して排卵が開始するまでその状態で止まり、排卵が予定された卵はその直前になって成熟分裂を進める。すなわち胎児期で形成された卵子は細胞分裂を行わず、排卵されるまでいわば老化していくことが分離異常を引き起こすと考えられている。数的異常の多くは突然変異により発生しており、この場合両親の核型は正常である。しかし、次のような例外があるので注意が必要である。(1) 親に相互転座があり、第一減数分裂時の3:1分離により、異数性の異常が起こることがある。この場合、バンドパターンが正常染色体とは異なる。(2) 表現型は正常であっても、親に数的異常の低頻度モザイク、あるいは性腺モザイクが存在する場合がある。例えば一度トリソミー型Down症候群の子を生んだことのある母親の次子における再発危険率が生んだことのない母親の約5倍に頻度が高くなるが、その原因の1つは低頻度モザイクの母親がいるためと考えられている。
 モザイクは受精卵の分割分裂の初期に染色体不分離、染色体核外喪失あるいは分裂終期脱落などによって生じる。受精卵の第一卵割時に染色体不分離あるいは染色体核外喪失が起きると、最大50%の異常細胞のモザイクが生じる。発生早期に起きた染色体不分離あるいは染色体核外喪失では、異常細胞は内胚葉、中胚葉、外胚葉に由来する全ての組織に認められるが、発生がある程度進んだ時点でのモザイクの出現では、ある特定の胚葉由来の組織のみに異常細胞が認められるということが起こりえる。トリソミーモザイクとしては、X, 18, 13, Y, 9, 14, 22, 20, 12, 10, 7 (頻度順)の報告がある。モノソミーモザイクとしては、Xと21以外の生産児の報告はない。
 低頻度のモザイクは常に見逃される可能性がある。例えばA%の信頼度でB%のレベル以上のモザイクを否定するためにはC個以上の細胞を観察しないと行けないということを常に念頭に置いておく必要がある(表参照)。
 更に、体細胞の染色体分析では、正常核型であるにも関わらず、性腺のみがモザイクの状態になっている場合もある(性腺モザイク)。

表 低頻度モザイクの信頼度

観察細胞数 信頼度 観察細胞数 信頼度
0.90 0.95 0.99 0.90 0.95 0.99
5 38% 64-73 4% 5% 7%
10 21% 26% 37% 75 4% 4% 7%
15 15% 19% 27% 76-89 3% 4% 6%
20 11% 14% 21% 90-98 3% 4% 5%
25 9% 12% 17% 99-112 3% 3% 5%
30 8% 10% 15% 114-148 2% 3% 5%
35 7% 9% 13% 149-151 2% 3% 4%
40 6% 8% 11% 152-227 2% 2% 3%
45 5% 7% 10% 230-298 1% 2% 2%
50-55 5% 6% 9% 299-458 1% 1% 2%
59-63 4% 5% 8% ≧459 1% 1% 1%

表1. 自然流産にみられる染色体異常
(トリソミー)の頻度

染色体異常 頻度
常染色体トリソミー 22.3%
1番 0
2番 1.11
3番 0.25
4番 0.64
5番 0.04
6番 0.14
7番 0.89
8番 0.79
9番 0.72
10番 0.36
11番 0.04
12番 0.18
13番 1.07
14番 0.82
15番 1.68
16番 7.27
17番 0.18
18番 1.15
19番 0.01
20番 0.61
21番 2.11
22番 2.26
性染色体トリソミー 0.20