9.ひとやすみの会(1q部分重複症候群患者家族会)設立5周年記念イベント

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ひとやすみの会(1q部分重複症候群患者家族会)設立5周年記念イベント

1q番染色体長腕部分重複症候群は、1番染色体の長腕の一部が重複することにより症状をもつ疾患です。その重複の部位によって、重症度が非常に異なります。長腕の上に行くほど重症になり、場合によっては命のせめぎ合いが続くことも少なくありません。日本で30から50名程度の患者数と思いますが、上記の様に重症度も困りごとも非常に幅が大きいように思います。この疾患患者のお一人(佐賀県在住:長崎を含む九州ではこの家族のみしかその存在を知られていません)がバンビの会会員におられます。このご家族が中心になり、ここまでできたことはその尽力に敬意を表するとともに、驚嘆すべきものと思います。本疾患のこと、家族会のことを私が理解している範囲でお話しします。
“希少疾患“についてその全体像をつかんで、問題点を把握し、その対応を考えるために何をすればよいのかは比較的方向性は定まっているのではと思います。1q部分重複症候群についての経緯は以下のような感じです。
2013年11月1日:佐賀県難病支援ネットワークから「1q部分トリソミー」に関する研究助成申請の打診がこの家族にありました。私が主治医をしておりました関係もあり、何とか研究にができるかという話をこのご家族から受けました。私の頭の中では、日本小児遺伝学会(私は評議員)の会員(遺伝性疾患患者を数多くみている小児科が中心)にこの疾患患者の診療をしているかどうかのアンケート調査→その患者の臨床症状の詳細を再度確認→同時進行で、アレイ検査(1qの詳細を調べることができる検査)をお願いしする→1qの重複の状況と臨床症状の関連性のまとめ→その報告(論文と健康ガイドライン作成)を行えばよいのではと思い、「幾ばくかの資金があればこれくらいのことはできるのでは」と即答しました。
2013年11月8日:本研究について、公益財団法人佐賀県未来創造基金事業指定助成プログラムとして採択される。この支援規模は、地域社会の寄付とそれに見合った佐賀県の助成との合算で決定されるものです。そのため、同12月より家族会も入り込んでの寄付活動が開始されています。この月に、これまで個人的に他の家族とのつながりがあったものを「家族会」として正式に設立されました。これは、佐賀県のご家族が中心的に動かれました。
2013年11月15日:日本小児遺伝学会小崎健次郎理事長(慶応大学)に、学会会員への1q部分重複患者の診療経験に関するアンケート調査を行うことについて相談。名簿のことなどあり、理事会で話し合ってもらうことになりました。
2013年12月24日:日本小児遺伝学会理事会にてアンケート調査を承認される。学会より住所ラベルを郵送される。この段階では、まだ助成枠が確定していなかったですが、出来る範囲で進めていました。
2014年1月8日:日本小児遺伝学会会員小児科医249名にアンケート調査(一次)を発送。回答数150名(60.2%)のうち、19名の医師(回答数の12.7%)で述べ29名の1q部分重複患者の診療経験ありとの返答をいただきました。
2014年2月10日:19名の医師に2次アンケート調査とワーキンググループ加入依頼を発送。
ざっと書くとこのような時系列でした。
ひとやすみの会は、前述のように2013年12月に準備会として活動開始、2014年3月に山口県の家族と家族交流会第1回を開催、同5月から専用ホームページを開設されています。2015年2月14日に佐賀県で第5回家族会と併せて研究成果のお披露目の本症候群キックオフ会が開催されました。
今回、家族会設立5周年記念イベントが今年9月14日に行われました。
私自身、バンビの会と同様にこの会も設立(研究)当時から深く関わっていることもあり、思い入れは非常に強いです。この会の特徴は、周りに誰も同じ疾患の方がいないことではないかと思います。家族会と言っても全国に広がりますし、その数が少ないため、誰かが中心的に行わないと家族会を維持することが困難です。家族会を開くと言っても地元(例えば佐賀県内)で開くと言っても他県の人はどうするという問題もあります。また、重症度も異なるということは、問題点も異なるでしょうし、それをとりまとめることも簡単ではありません。私は、仕事の内容(医師で臨床遺伝を専門としている)と勤務以外の活動がほぼ重なるので、どっぷりと浸かることがやろうと思えばできやすい環境にあると思います。しかし、仕事は全く別領域の場合、仕事以外で家族のことも(実際の患者であるお子様の様々な問題を解決しないといけないこともあると思います)ある中で、家族以外の本疾患患者家族の生活環境の改善や連携を進めることをするのは、とてつもないエネルギーがかかるということは容易に想像がつくと思います。これを成し遂げている、このご家族の姿勢には本当に頭が下がりますし、私にできることは何でも協力したいと個人的に思っています。誰かが率先して、一生懸命やっている姿勢をみせなければ、行政を含めボトムアップの体制がコンセンサスとなっている社会では何かができるまでにものすごく時間がかかると同時にその内容も中途半端になることを私自身も実感しています。自分の家族のみが幸せになるということはありえないと思います。その意味では、バンビの会もしかりです。まわりまわって自分の家族にも恩恵が来るということではないかと感じています。
バンビの会の会員の中にこの様にある意味、孤軍奮闘されている家族も含まれています。バンビの会会員の皆様にもご理解ご支援をしていただければ幸いですし、ご自身の周りでも是非より良い状況の実現にできる範囲でご尽力賜れれば幸いです。
私は診ている患者で我が国ではほとんどその存在が知られていない方もいます。この方にとって情報を仕入れる方法はどう思いますでしょうか?最近分かったことですが、外国でその疾患の家族会がインターナショナルで作られているところも散見されています。どうも公用語は英語の様で、フェイスブックで行われていることが多い様です。実際に、そのような家族会を利用されて情報を得られている方もおられます。

上記の経緯で、2019年9月14日(土)に設立5周年記念イベントが国立病院機構佐賀病院内で開催されました。川口様、奥田様らと参加してきました。その中で記念講演をさせていただきましたので、そのスライド原稿をみていただければ幸いです。  スライドの原稿はこちらです⇒ひとやすみの会5周年記念イベント記念講演
午後からは、“「だれもが幸せになれる優しい社会」をつくるために私たちができること”をテーマにシンポジウムを行いました。その、課題として2つの図を作成しました。1つは、“障がいに対してのノーマライゼーション”をどう考えるかと言う図です。もう1つは、“社会との共生”の最終形はどういったものか“という図です。どちらも非常に考えさせられるものと思っておりますが、皆様のお考えはいかがでしょうか?
時にはこのようなことをみんなで考える環境があっても良いのかも知れませんね。
掲載資料はこちらです⇒1qシンポテーマ図
話しましたように、ひとやすみの会は10家族の会ですが、医療関係者、行政なの専門家なども来ていただき、ボランティアも充実し、総数150名を超える5周年記念になりました。中心的にされましたご家族のご尽力に改めて敬意を表するとともに、本当にお疲れ様でした。

2019年9月23日