平成26年度バンビの会療育相談会 in 佐世保

今回、事前に以下のご質問をいただきましたので、それを中心にお話させていただきます。正解が明白でない、又は複数あるといったような意味で非常に難しい点もありそうですが、私自身の経験を踏まえての私見ですので、皆様にすべて合うという事にならないかも知れませんが、ご参考にしていただけますと幸いです。

1.おとなになって乱暴になっています。家族や周りの人はどのような対応をしたらいいのでしょうか?

乱暴といっても次に述べるような色々な事が想定されます。何か気に入らないことがあって、その表現として乱暴という行為になってしまっている場合(この場合には時、場所、動機など環境要因と関係します)や、一日中不機嫌でずっと怒っている場合などです。後者の場合には特に、体調不良を先ずは考えないと行けないと思います。どこかが痛くないのかなど医療ケアの必要性を考慮する必要があります。人によって、その感じ方は様々ですし、症状の伝え方もそれぞれかも知れません。注意深く観察し、何か気にかかる所があれば行きつけの病院を受診されるのをお勧めします。主な疾患と心理面での影響は以下のようになります。なかなか、検査一つをとっても難しいことがあるかも知れませんが、このような事を考えるのは極めて重要です。認知症などを疑う場合には脳の画像検査が必要になることもあります。

疾患 精神面での影響
痛み 抑うつ、行動の変化、攻撃性、不安
視力経過 不安、抑うつ、認知機能喪失、激越(パニック)
痙攣発作 攻撃性、抑うつ、認知機能喪失
頚椎亜脱臼 歩行機能低下、筋力低下、失禁、不安、激越、抑うつ
泌尿器系問題 失禁、激越、不安
関節炎 激越、抑うつ、能力喪失
糖尿病 能力喪失、尿失禁、激越、抑うつ
歯科的問題 激越、少食、抑うつ、攻撃性
甲状腺機能低下症 抑うつ、認知機能喪失、食欲変化
甲状腺機能亢進症 不安、多動、抑うつ、認知機能喪失
睡眠時無呼吸、睡眠障害 抑うつ、認知機能喪失、激越、精神障害
胃腸障害 食欲喪失、抑うつ、激越、不安
薬の副作用 行動変化、心理学的変化

特に身体的な異常を認めない場合には、次ぎに精神面で何かが起こっていないかどうかを考えます。先ずは、その怒りっぽい状況が何らかの精神的ストレスに起因していないかを考えていきます。よく起こす時間帯、場所、人、何かをさせられる、又はしている行動などがないかどうかを確認します。何かきっかけがあるようでしたらそれに対しての対策を得ることが出来るものかどうかを検討していきます。その方の思い、希望を尊重し対応ができるものであれば、それを試して様子を見ていくという手があります。集団生活上、どうしても対応が難しい場合には、どうしたら良いかを更に検討することが必要かも知れません。サポートをする方がサポートされる側の心情を理解する姿勢が重要と思われます。その行動が、周りにも多大な影響を与え、それが自分に跳ね返ってくるなど、問題が大きければ、薬物療法が必要な場合もあります。その際にも、薬さえ飲めば何とかなるという状況にならないことも数多く経験しています。薬物療法(漢方や西洋薬)と環境整備(行動療法を含む)を両輪として対応することが重要の様です。

2.こだわりが強くなって次の行動になかなか進めない時の対応

長崎大学病院精神神経科准教授にこだわりについてお尋ねしたことがあります。そのご返事は以下の様なものでした。
「こだわりは、「変化に弱い傾向」「思考の柔軟性のなさ」からくる「変化への不安」を生じさせないための自己防衛システムとして機能している場合があります。そのためこだわりをとりさろうとしたり、抑えようとしたりすると、強い不安や怒りが生じることがあります。
 自閉症の方では、こだわりの程度を完全にコントロールするのは無理なので、それをうまく生かしていったり、置き換えていったり、ということが推奨されています。たとえば、恐竜に対するこだわりがある子には、恐竜の図鑑を持ち歩くことを許可して、それをいつでも見れるという安心感から気持ちが安定するとか(あらかじめ時間や場所を約束事として限定した方がいい子もいます)、なんでも口に入れてみないと気が済まない子は、かわりにガムを与えてうまく吐き出す練習をするとか、というやり方になります。
 「こだわり」は一人一人で違うので、その人に合ったやり方を検討していくことが大切だと思います。」

人によってはグルーヴ(習慣的に自分なりの順序などの決め事。たとえば、並べるものと順番、ある行動での決め事など)が非常に強い方もおられ、臨機応変さを求められる状況におかれるとどうして良いか分らず固まってしまう、などは良く経験されるものと思います。ここで、その出来事が、非常に不愉快な状況と認識してしまう失敗体験と感じてしまうと、記憶力の良さと時間の観念理解の弱さが相まって、その後、長い時期、拒否感が強まることになり得るようです。ストレスを全く感じない人生はおそらくあり得ないですし、成長もしにくいかも知れません。私自身、多くの患者家族をお話をする際に、「成功体験と失敗体験が混じるような環境が良いし、失敗体験についてはその時その時にカタをつけてあげることが重要ではないか」ということをお伝えしています。また、様々な行動において、おおらかに見てあげてもよいところと、直していただかないと最終的に本人の不利益になるところを選り分けることも必要と思われます。どうしても何とかしないと行けない所については、上述の環境整備と医療介入が必要になることもあります。

こだわりが強く、固まってしまい、次の行動になかなか行けない時には、それが精神的に解きほぐされるまで待つのが最もあり得る方法と思われますが、固まった要因を解決しないとどうしようもない状況の時や時間の問題が生じる時は苦渋の選択をしないと行けないこともあります。例えば、公共交通機関に間に合わなくなってしまう、階段やエスカレータで上に上がったものの(怖さなどから)降りれなくなり、しかし、降りないことにはどうしようもないなどの状況です。目先を変えることができれば、何とかなることもあります(例えば、階段やエスカレータはダメだけど、エレベーターなら大丈夫など)。このあたりも、極力、事前にシュミレーションをしておけば、最悪の状況を免れることができると思われます。サポートをする方は、臨機応変に対応もできるし、我慢などもできると思われますが、それをサポートする側に押し付けてもうまく行かないことがあること(だからこそサポートされる側に回っていること)を良く理解することも重要です。サポートする側とされる側で、色んな場面で綱引きが行われていると思います。より良く生活するためには、何とか出来るようになって欲しいとの思いから、「正解・常識・普通」と思われる方向に全ての面で妥協なく引っ張っていくのは、おそらくうまく行きにくいようです。ここは目くじらを立てる必要はないと思われる所については、時に、引っ張られることは重要かも知れません。普通の方がなんなくできることを、ある人はすごい努力をして達成できることもあり得ます。その際には、その努力を本心から認め、称賛してあげることも信頼関係を強固にするために必要です。

3.地域で子どもの時からおとなになってもトータルで診てもらえる医療機関はできないでしょうか?

これはなかなか簡単ではありません。例えば、数多くの診療科にかかっている子どもそがいるとして、それぞれの分野の主治医の中で中心的な役目を果たしているのは小児科医というイメージがあるかも知れません。その子が大人になった際に、小児科医から内科医などに引き継がれることを「トランジション」と言うようです(以前は「キャリー・オーバー」と言っていた時もあります)。このトランジションがスムーズに行き、トータルで診てもらえるシステムを確立することは非常に大切と思われますが、残念ながら問題が山積している様に感じます。思いつくままに列挙すると以下のようなものがあるかなと思います。

(1) 医学が非常に進歩していること(専門性が高くなっていること):1つの診療科、1つの診療グループのみでカタがつく疾患患者にとってはもちろん良いことも多いし、問題が少ないように思われます。しかし、多くの診療科にまたがる患者にとっては、1人の医師が全てを最先端の知識を持ってトータルで診ることはその専門性の深さから不可能と思われます。それは同じ診療科内でも起こります。例えば小児科医はある程度は全人的に診ることが出来ますが、特殊な医療技術や専門性を要求される疾患内容であればあるほど同じ小児科の中でも関係するより専門性が高い医師に協力を仰ぐことは普通です。ありえる手段としては、広く(浅くしか出来ないかも知れませんが)色々な領域についてある程度の知識を持った医師がホームドクターとして患者家族の幅広い分野の相談を受け、適した診療科に医療連携を保持しつつ紹介すること があると思われるかも知れません。しかし、このような医師の存在が少ないように感じます。ものすごいエネルギーが必要にも関わらず、医師として他の医師からの評価がさほど高くないかもしれません。また、そのような方々に深く関われば関わるほど、1人に対しての診療時間がかかり、多くの患者を診ることが物理的に困難ということもあり得そうです。病院側からすると経営にも関わるかも知れません。
(2) 1つの病院のみで完結することが難しい場合があること:上記の高い専門性が必要とされればされるほど難しくなることは想像できます。例えば、私の専門は「臨床遺伝」という分野ですが、臨床遺伝の専門医は、「小児病院・小児医療センター」で活躍されています。そこは、「こどもに特化した病院」ですので、トランジションの問題は当然解決できません。
(3) だれに相談したら良いかが難しいこと:例えば福祉制度については、国、各都道府県、市町村の公的機関に相談するというイメージは湧きやすいかも知れません。しかし、医療についてはそこがあやふやな感じがします。
医療は、患者家族の要望に沿って発展していくものと思います。その意味では、患者家族の思いや要望を各地区の医師会や医療関係者に伝えることから始まると思っています。

4.なかなか寝付けないのですが良い対処法は?

 良質の睡眠は非常に大切とされています。睡眠の質が悪ければ、睡眠時間が長くても寝不足の状況に近くなります。その代表的な疾患が睡眠時無呼吸です。例えばダウン症候群の方は、この睡眠時無呼吸症候群が多いとされています。舌が大きめ、頚が短く肉付きが良いなどの体質的なもので気道(空気の通り道)が狭くなりがちであるとか、呼吸中枢が弱いなど指摘されています。寝ている時にいびきが大きく、時々、いびきが止まる(実は息が止まっている)ことが多く見られれば、小児科医、耳鼻咽喉科医や呼吸器内科医などにご相談されてみてはと思います。
 いろいろな体位で寝ている方もいると思います。自然と最も気道を確保しやすい体位になっているかも知れません。いびきが小さく、スースー寝ているのであれば、そうだと思われます。良く観察されてみることをお勧めします。しかし、眠る体位が「こだわり」から来ていることもあるかも知れません。例えば、布団では寝れない、ベットでは寝れない、ある特定の状況下でしか寝れないなどです。この場合には、その「こだわり」を何とかしないと行けないかも知れません。
 非常に眠りが浅かったり、寝る時間が遅くなったり、または全く睡眠時間が不規則(場合によっては昼夜逆転)ということもあります。最近、あるダウン症候群の方で、自律神経系の不安定性が強く、特に安静時に交感神経が非常に優位だった方がおられました。ご承知の通り、安静時や睡眠時には副交感神経が優位になります。交感神経が優位であれば、俗に言う「気が高ぶって眠れない」状況になりかねません。その一方、急に立ち上がったりする、急激に副交感神経が優位になり、血圧低下などが起こる事も経験しています。もしかしたら、この自律神経系も睡眠に多大な影響を与えているのではと、少し心配しています。睡眠を促す、セロトニンやメラトニンを高めるようなことを考えても良いかも知れません。セロトニンは、必須アミノ酸であるトリプトファンから作られます。トリプトファンが多く含まれるなどは睡眠を促すかも知れません。メラトニンは、最近はお薬としても出ています。
 どうしても睡眠が担保されない(されにくい)場合には、薬物療法もあります(漢方薬もありますし、西洋薬(睡眠導入剤)もあります)。睡眠導入剤は人によって、合う・合わないといったものが大きくありそうです。眠剤を使用して、あたかも覚醒剤のように目がさえて全く寝なくなったという方も経験しています。場合によっては実際に試してみて最もあう薬を見つける必要があるかも知れません。