排尿障害について

長崎大学病院 小児科 北村 温子

ダウン症候群では、これまでに先天性心臓病、甲状腺、消化器系などの様々な合併症についての報告があり、それに基づいての健康管理を行っています。
腎臓病や排尿機能のことについてはこれまであまり知られてはいませんでしたが、近年では腎不全の報告も散見されるようになりました。
また、ダウン症候群患者様の診察の際、尿回数が少ない、頻尿、といった排尿に関する相談を受ける機会がしばしばありました。調べてみると排尿後にも膀胱に尿が残っていること(残尿)がわかった患者様も少なくありません。
尿回数が少ないとこは、介護する方から言えば、非常に介護しづらいということはなく、そのため放置されやすい傾向にあります。
しかし長期的には、腎臓・膀胱の働きに悪影響を与える怖れもあります。
したがって、ダウン症候群の方々の平均寿命が高くなり、地域社会の中で生活してくようになった現在、この問題は重要な意味を持ってまいります。
わたしたちは、実際にダウン症候群で排尿障害を起こしやすいかどうかの研究を行いました。5歳から15歳のダウン症候群児55人、対照小児35人でウロフローメトリー検査(排尿の勢いをみる検査:図1)を行いましたところ、ダウン症候群児で排尿に勢いがないパターンが有意に多く認められました(図2)。
また腹部超音波検査で、7%のダウン症候群児に残尿が認められました。
15歳以降のダウン症候群でも同様の検査を行っておりますが、やはり排尿に勢いがない方が非常に多く、残尿は前述した小児のグループよりも多い頻度で認められ、かつ多量の残尿がみられた患者様もたくさんいらっしゃいました。
このような排尿機能の異常がどのようにして生じるのかはわかっておりません。しかし慢性的な残尿は二次的な腎機能低下を引き起こす可能性があります。
排尿の問題は、患者様本人が困っていない(困っていても訴えることができない場合もあります。)、ご家族も困っていない、など興味関心が薄い範囲だと思われます。今回のわたしたちの研究でも、病院は受診していないけれど排尿回数が少ない、失禁がある、尿に勢いがない、などの症状に気づかれているご家族がたくさんいらっしゃいました。そこでぜひ排尿回数は?失禁はないか?排尿に勢いはあるか?・・・・などにも普段から気をとめていただきたいと思います。1日の尿回数が極端に少ない場合は排尿を促すよう(誘導排尿)お願いいたします。
ダウン症候群患者様の健康管理を行っていく上で、排尿や腎臓の機能に関しても定期的なフォローアップがのぞまれます。

図1 ウロフローメトリー:センサー付きの便器に排尿することで排尿障害の程度が確認できる検査
ウロフローメトリー

図2

正常パターン(ベル型)
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異常パターンの例
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