11.疾患別移行支援ガイド

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疾患別移行支援ガイド

 

バンビの会会員の皆様、こんにちは。近藤達郎です。現在、様々な学会で自然歴を通した支援を検討・実行している状況です。ダウン症候群については、日本小児遺伝学会が中心に取りまとめており、私が担当になりました。それで、以下のようなものを作成しました。おそらく今後、これをもう少し簡略化して最終版が世に出てくるものと思いますが、私が書いた簡略化されていないものをご紹介します。何かのお役に立てば幸いです。

 

疾患名:Down症候群

 

  1. 病態

基本的に、21番染色体が(部分)トリソミーになることで各種症状が認められる染色体異常症である。1866年Downにより最初に報告され、1959年にLejeuneらが21番染色体の過剰を指摘した。約95%は染色体数47の21トリソミー型で、他に転座型やモザイク型がある。21番染色体の部位と臨床症状との関連についての報告は散見され、臨床症状にもっとも関係する領域(DSCR)は、これまでに4つ(DSCR1-4)知られている。

 

  1. 小児期における一般的な診療(概略)

○主な症状

筋緊張低下、関節弛緩、活気のなさや全体的に平坦な顔貌、内眼角贅皮、眼瞼裂斜上、小さい耳、顔面中部低形成、短く過剰な項部皮膚、第5指内彎および短小、第1,2間離開、手掌の単一横断屈曲線、脛側弓状紋、発育・発達の遅れ

○主な合併症

先天性心疾患:房室中隔欠損症、心室中隔欠損症、ファロー四徴症など
消化器疾患:十二指腸閉鎖/狭窄、鎖肛、ヒルシュスプルング病、高度便秘、臍ヘルニア、気管食道瘻、幽門狭窄症、輪状膵、胃・十二指腸潰瘍など

神経疾患:てんかん、脳波異常、全前脳庖症、前頭縫合開大、精神疾患、社会性に関連する能力の退行様症状など

血液疾患:一過性骨髄増殖症(類白血病反応、TAM)、貧血、白血病(ALL, AML)、リンパ腫、胚細胞腫、脳腫瘍、免疫異常など

内分泌疾患:甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症、慢性甲状腺炎、性腺機能不全、高尿酸血症、糖尿病など

眼科疾患:斜視、白内障、屈折異常(遠視、近視、乱視)、眼振、円錐角膜など

耳鼻咽喉科疾患:難聴(伝音性、感音性、混合性)、中耳炎など

整形外科疾患:関節弛緩、環軸不安定症、短指、多指症/欠指症、後彎、膝蓋骨脱臼/亜脱臼、外反偏平足、股関節脱臼など

泌尿器疾患:腎奇形、茎/小陰嚢、排尿障害など

皮膚科疾患:皮膚大理石病、皮膚角化症、末梢循環不全、慢性湿疹など

その他:起立性低血圧、呼吸器感染症、無呼吸、歯牙萌出遅延、咬合不全、歯列不整、歯牙欠損、歯肉炎、耳下腺異常など
○診断の時期と検査法

Down症候群についての診断は、遺伝カウンセリング実施後に染色体検査(G分染法)を行う。診断時期は、妊娠中(出生前)のことも出生後のこともあり得る。

合併症についての診断は、重症度に従って各領域の専門医との連携のもと適切に行う。心疾患や消化器疾患など先天性疾患に関しては、出生後早い時期に問題がないか否かを含めて検査を行うことが望まれる。

○経過観察のための検査法

出生後早い時期に診断がついた合併症については、定期的に検査を含めての経過観察を行なう。また、様々な合併症を念頭において経過観察を行い、必要に応じて、適切な専門医に紹介することも重要である。発達に関しては、リハビリテーションや赤ちゃん体操の重要性を認識したうえで経過を診ていき、福祉的手続きのためにも発達検査や知的検査による評価を考慮する必要がある。更に、精神的な問題が出現した際にはその症状にあった神経発達症的検査などを行う。

○治療法(外科的治療、内科的治療)

上記に述べたようにDown症候群は、種々の合併症を生じる可能性がある。各診療科医との連携のもと、症状に見合った治療を選択する必要がある。併せて、本児の健康状況を家族と共に整理する医療者の存在も重要である。

○小児期の合併症および障がいとその対応

合併症に関しては上述を参照。障がいについては、本人はもとより親、きょうだいなど家族に対する精神的支援が重要である。そのためには家族の状況にも気を配る必要がある。更には、本人・家族が心身ともに健康的に生活するためには地域社会への啓蒙も必要と思われる。

 

  1. 成人期移行も継続すべき診療

○移行・転科の時期のポイント

ダウン症候群ある方々は多くの診療科にかかっている可能性があるが、その少なからずは成人期になってもそのまま引き継いで経過観察を含め、適切な診療を進めてくれるものと期待される。成人期移行・転科が関わるのは、医師が小児科医や小児外科医など小児を対象としている場合と病院そのものが小児医療センターやこども病院といった年齢に規制がかかるところを中心にしている場合が考えられる。例えば先天性心疾患については最近、術後から成人期に至るまで診療を行う分野も大分確立してきている。おそらく、最も問題がのこるのは、小児科医がトータル・ケアを担っている場合と思われる。家族支援を含め、これまで行ってきたトータル・ケアの成人期移行・転科を考えるターニング・ポイントは、その病院のシステムとして小児科医が何歳の患者まで関わることができるのかにかかっているのかも知れない。

○成人期の診療の概要

現在、ダウン症者の平均寿命は約60歳前後とされている。主な死因は、感染症、特に呼吸器感染症とされる。また老化現象が健常者より早く、肥満を来す場合も多い。そのため、生活習慣病についても注意が必要である。更には、社会性に関連する能力の退行様症状、精神症状やアルツハイマー病などへの対処も重要である。

○成人期主な合併症(小児期から持ち越しているものも含む)

先天性心疾患:小児期の術後など
消化器疾患:小児期の手術後、便秘、胃・十二指腸潰瘍など

神経疾患:てんかん、脳波異常、精神疾患、社会性に関連する能力の退行様症状、アルツハイマー病など

血液疾患:白血病、貧血、腫瘍、免疫異常など

内分泌疾患:甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症、慢性甲状腺炎、性腺機能不全、高尿酸血症、糖尿病など

眼科疾患:斜視、白内障、屈折異常、眼振、円錐角膜など

耳鼻咽喉科疾患:難聴(伝音性、感音性、混合性)、中耳炎など

整形外科疾患:関節弛緩、環軸不安定症、短指、多指症/欠指症、後彎、膝蓋骨脱臼/亜脱臼、外反偏平足、股関節脱臼など

泌尿器疾患:茎/小陰嚢、排尿障害など

皮膚科疾患:皮膚大理石病、皮膚角化症、末梢循環不全、慢性湿疹など

その他:起立性低血圧、肥満、呼吸器感染症、無呼吸、咬合不全、歯列不整、歯牙欠損、歯肉炎、嚥下障害など

 

  1. 成人期の課題

○医学的問題

知的障害や精神障害に関わることが一番の問題であると推定される。成人期になると、一般的に自己決定権が最も尊重される。ダウン症者は、重度な知的障害を持つこともあり、また、知的障害が軽度であっても精神的動揺が直接的にコミュニケーションを含む日常生活能力に多大な影響を与えることもある。その場合には、家族を中心に他者から状況を聴取することがある。その上で最も良いと思える診療を医療者は考えることになるが、患者本人がその診療をひどく拒否した際にどのように医療を進めるかは決まったものがなく、非常に悩ましいものと思われる。これまでダウン症者・家族とトータル・ケアを進めてきた小児科医である主治医から、内科系に成人期移行を進めるにはおそらく患児と両親の相互の意見を聴きながら医療を家族と共に考えていく小児科的な医療姿勢に理解を示す医師の存在が必要かも知れない。患者が利用する主病院が小児医療センターやこども病院ある場合は、その医療機関がポスト小児についても調整対応ができるようなシステムがあるとスムーズと思われる。

○生殖の問題

ダウン症男性は原則不妊、女性は妊孕性を持つとされる。医療の進歩に伴い、理論的にはダウン症者同士でも挙児が可能になるかも知れない。21トリソミーカップルの児については、1/4が21テトラソミーで流産、2/4が21トリソミー、1/4が正常核型と考えられるが、ダウン症胎児の約80%が流産するということから考えると、胎児期に成長が順調な場合には正常核型の児の可能性が高くなることが推測される。ただ、その場合に親になるダウン症者の育児については多大なサポートが必要になることが推測され、社会的支援は不可欠と考えられる。

○社会的問題

知的障害の問題があり、特別支援教育を受けているダウン症児が多い。就労に関しても一般就労施設(障がい者雇用を含む)、A型就労施設、B型就労施設が多いが、生活介護施設を利用している方も少なくない。B型就労施設や生活介護施設を利用しているダウン症者は経済的生活基盤を障害基礎年金などに頼らざるを得ない。個々人の特性に合った職場の選択と必要に応じた生活支援ができるような社会システムが必要と思われる。

 

  1. 社会支援

○医療費助成

ダウン症候群のある小児では、乳幼児福祉医療制度、こども福祉医療制度、障害者福祉医療制度などの福祉医療がある。障害者福祉医療制度は療育手帳の等級によって助成の程度が異なる。(1)けいれん発作、意識障害、体温調節異常、骨折又は脱臼のうち一つ以上続く場合、(2)治療で強心薬、利尿薬、抗不整脈薬、抗血小板薬、抗凝固薬、末梢血管拡張薬又はβ遮断薬のうち一つ以上が投与されている場合、(3)治療で呼吸管理、酸素療法又は胃管、胃瘻、中心静脈栄養等による栄養のうち一つ以上を行う場合、(4)腫瘍を合併し、組織と部位が明確に診断されている場合であることの何れかが該当すれば小児慢性特定疾病の対象基準に当てはまる。成人の場合には、障害者福祉医療制度が対象になる。

○生活支援

小児の場合には、障がいの程度によって、特別児童扶養手当や障害児福祉手当が該当する場合がある。20歳以上の成人では、障がいの程度により障害基礎年金や特別障害者手当が受給される場合がある。

○社会支援

ダウン症児では受給者証を取得することで、児童発達支援や放課後等デイサービスなどを利用できる。療育手帳は等級によって、公共交通機関の割引、税金の控除や減免などを受けることができる。その他に身体障害者手帳や精神障害者保健福祉手帳が該当する場合もある。また、18歳以上では障害支援区分を申請することで福祉サービスを利用できる場合がある。

 

令和元年11月10日