第11回ダウン症候群トータル医療ケア・フォーラム
ダウン症候群女性でのウーマンズヘルスケア
長崎大学病院産婦人科
北島百合子
【はじめに】
ダウン症候群は、出生600 人~800人あたり 1 人の頻度で、全国で年間 1,000 人~2,000 人が出生していると報告されている。一般に、ダウン症候群では、身体的成長と知的発達の障害、身体的合併症が問題となるが、その程度には個人差がある。近年、ダウン症候群の平均寿命は60 歳に達し、それに伴って女性のヘルスケアに関する特有の問題が生じる可能性があり、対策が求められている。産婦人科医としてどのようにサポートできるかお話したいと思っている。
【ダウン症候群での月経に関する問題】
これまでの報告によると、ダウン症候群女性の初経年齢は平均13.6 歳であり、一般女性と差は無い。また、月経の周期性も28.3 日と差が無かった。月経関連症候として、不正性器出血やイライラやむくみといった月経前症候群、月経困難症(月経痛)が挙げられているが、ダウン症候群女性では月経で困っていることを十分に伝える事ができない可能性がある。初経が発来する前から視覚的にわかりやすい教材を用いて、月経について丁寧に教育を行うことが大切である。また、具体的な月経用品の使用方法や、月経周期の記録の重要性なども教育していく必要がある。月経痛や月経前症候群が強い場合は、鎮痛剤を用いたり、低用量ピルを用いて症状を緩和することも大切である。鎮痛剤や低用量ピルは月経痛や月経前症候群に効果がある薬剤だが、血栓症などの副作用もあるため、使用する際の適応は十分に検討する必要がある。
【ダウン症候群の女性と妊娠】
月経があるダウン症候群の女性の約 76%に排卵があり、一般女性の排卵率と差がない。ダウン症候群の女性の少なくとも半数には妊孕能があり、妊娠した場合,その子どもがダウン症候群である確率は約 50%である。妊娠に関する丁寧な性教育が必要不可欠だが、妊娠を希望しない場合は避妊目的のピルを用いることもある。ダウン症女性が妊娠・分娩を希望する場合は、家族を含め社会的にも十分なサポートが必要である。また、性交渉の経験があるダウン症女性では子宮頸癌検診も必要になる。
【ダウン症候群と閉経】
一般女性での閉経の平均年齢が51.2 歳に対して、ダウン症候群では 44.7 歳から 47.1 歳と早いことが報告されている。ほてりやイライラ感、睡眠障害といった更年期症状が出てくる場合は、ホルモン補充療法の適応になる。この際も、血栓症のリスク等がないか十分適応を考える必要がある。
【最後に】
ダウン症候群も含め、全ての女性が快適に前向きに生活を送ることができるように、我々産婦人科医は様々な活動を行っている。女性の味方である産婦人科医を大いに利用していただきたいと思う。
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ダウン症男性の“性”に関する諸問題
佐賀大学医学部泌尿器科学講座
野口満
以前は、公の場で“性”について議論することは少なく、むしろタブー視されていた。しかし、最近の情報化社会の中、性的なものは世間一般に氾濫している。さらに、医療として、教育としてまた福祉の中でしつかりと‘‘性”について議論されるようになった。一方、ハン ディキャップがある方々においては、未だに一般の方々とは違い、‘‘性”の問題については進んでいるとは言い難い。その中で、12 年前の第1回の本ダウン症フォーラムにおいて、ダウン症の方の性の問題を取り上げさせていただいた。そこでは、アンケート調査の結果から、ダウン症男児の性機能は正常に保たれていることが多く、勃起、マスターベーション、射精も確認されていたことを報告した。すなわち、ダウン症男児の性発達は一般の方と変わらないものと思われた。さらに、ダウン症男児のご両親は彼らの性に関することについて、どのように対処してあげたらいいのか、どこに相談すればいいのか等、悩みを持っていることも分かった。
ダウン症男児の性の生理的(機能的)発達は一般の方と変わらないが、性に関する心理的・ 社会的発達については、大きく変わるものと思われる。思春期での湧き上がってくる欲望をどうしたらよいのか、またその欲望自体が何なのか、本人たちはわからないかもしれない。性に関する情報の入手もしにくく、入手したとしても正確に理解できない可能性もある。このため、彼らは、不安、興奮といった感情の中、時には体の摺り寄せなど誤解を生じる行動となることもあり得る。では、性教育が必要なのか?「寝た子を起こし、自慰行為に依存してしまうのでは?」など心配される介護者もおられるかもしれない。しかし、人間なら誰しも性欲、性衝動はあるわけで、ダウン症の方の性の欲求解消が不要なことはない。そのためには性教育、自慰行為の教育は必要となってくるものと思われる。ただし、それはいわゆる“ガイドライン”的な均一のものではなく、ダウン症各個人の方の発達状況、社会的状況等にみあったオーダーメイド的な性教育で対応することがいいのではと考える。さらに、介護者側は先入観をもたずプライバシーを尊重し、彼らの性への関心を理解し、異性との交流を見守ることができればと考える次第である。
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特別な支援を必要とする人の性行動とその支援
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科
保健学専攻看護学講座
リプロダクティブヘルス分野
(長崎大学医学部保健学科看護学専攻)
宮原春美
私は長崎大学医学部保健学科で地域における性教育講座「からだ探検隊」を 18 年間開催してきました.内容は「大人になるからだと心」をテーマに,思春期を迎える子ども達が大人に近づくことは素敵なことだと思えるように,子どもたちが楽しんで参加できるようなプログラム作って実践してきました.
その頃、大学病院の精神科児童思春期外来で性的問題行動があった自閉症や知的障害のお子さんへの看護面接を担当しており,彼らの性的問題行動は知識がないために起こっていることが明らかになり、性教育について学校で学んでいてもその子どもの特性に合わせた学び方をしていないのではないかと考えました。
上記の経験をもとに,定型発達児の「からだ探検隊」のプログラムをさらに時間をかけて丁寧にやることで、特別な支援が必要な子どもたちにも十分応用可能ではないかと考え、発達障がい、知的障害の子どもさんのグループ学習として「からだ探検2隊号・3号」をスタートさせました。 2 号は障害のある小学生、3 号は同じく中学、高校生を対象にしました。2 号, 3 号には毎年バンビの会の会員さんが参加してくださいました。この講座でも視覚的教材を多く用いて、自分の体と心の変化について予測を持たせること、保護者も一緒に学び繰り返して教えることに重点をおきました。現在ではさらに学校を卒業した青年期においても性の学習は対人関係教育プログラムとしても重要であるとの認識から,「からだ探検隊:青年期版」も開催しています.
この18 年間の実践から, ダウン症をはじめとした特別な支援を必要としている人への性の発達,性行動へのかかわりで重要なことは
1.抽象的思考が困難であることを理解し,禁止事項ばかりでなく具体的に支援する.
視覚的に(絵本や紙芝居、人形、 DVD, モデル, パネル etc. )
相手の反応を具体的に伝えるためには,ロールプレイなどでわかりやすく
2.繰り返し、繰り返し伝える. → 教育・支援の基本
3.関わる人のセクシュアリティ(性に関する認識や行動)が反映することを忘れない.
子どもたちは膨大な性情報の中にあり,決して「寝ていない」→ 大人も学ぶ,性的行動は欲求・発達のサイン,性は豊かに生きるための権利,不適応のサインの場合もあり,性行動を否定的に受けとめない
と考えます.
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